プロフェッショナルの条件 パート3


プロフェッショナルの条件
R・Fドラッガー



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6章 イノベーションの原理と方法

ページ197【奇跡は再現できない】
 医者を長くやっていると、奇跡的な回復に立ち会うことがある。不治の患者が突然治る。自然に治ることも、信仰によって治ることもある。奇妙な食餌療法や昼間眠って夜起きることで治ることもある。このような奇跡を一切認めず、単に科学的でないとして片づけることは愚かである。それらは現実に起こっていることである。
 だからといって、それらの奇跡的な回復を医学書に載せ、医学生に講義する者はいない。それらのことは、再び行うことも、教えることも、学ぶこともできないからである。しかも、それらの療法によって回復するものは少なく、多くは死ぬ。
 これと同じように、私がイノベーションのための七つの機会と呼んでいるものと関係なく行われるイノベーションがある。目的意識、体系、分析とは関係なく行われる。勘によるイノベーション、天才のひらめきによるイノベーションである。だが、そのようなイノベーションは、再度行うことができない。教えることも、学ぶこともできない。天才になる方法は教えられない。
 
 そのうえ、発明やイノベーションの逸話集がほのめかすほど、天才のひらめきは存在しない。私自身、ひらめきが実を結んだのを見たことがない。アイデアはアイデアのまま終わる。

 イノベーションの方法として提示し、論ずるに値するのは、目的意識、体系、分析によるイノベーションだけである。イノベーションとして成功したもののうち少なくとも九十%は、そのようなイノベーションである。目的意識を持ち、体系を基礎として、かつそれを完全に身につけて、初めてイノベーションは成功する。
 それでは、イノベーションの原理とは何か。イノベーションに必要な、「なすべきこと」「なすべきでないこと」は何か。そして、私がイノベーションの条件と呼ぶものは何か。



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【なすべきこと】
 第一に、イノベーションを行うためには機会を分析することから始めなければならない。私がイノベーションのための七つの機会と呼ぶものを徹底的に分析することから始めなければならない。もちろんイノベーションの分野が異なれば、機会の種類も異なる。時代が変われば、機会の重要度も変わっていく。

1:予期せぬこと
2:ギャップ
3:ニーズ
4:構成の変化
5:人口の変化
6:認識の変化
7:新知識の獲得

 これら七つの機会の全てについて、体系的に分析することが必要である。単に油断なく気を配るだけでは十分ではない。分析は常に体系的に行わなければならない。機会を体系的に探さなければならない。

 第二に、イノベーションとは理論的な分析であるとともに、知覚的な認識である。したがって、イノベーションを行うにあたっては、外に出、見、問い、聞かなければならない。このことは、いかに強調してもしすぎることがない。イノベーションに成功する者は右脳と左脳の両方を使う。数字を見るとともに、人を見る。
いかなるイノベーションが必要かを分析をもって知った後、外に出て、知覚をもって客や利用者を知る。知覚をもって、彼らの期待、価値、ニーズを知る。

イノベーションに対する社会の受容度も、知覚によって知る。脚にとっての価値も、そのようにして知る。自らのアプローチの仕方が、やがてそれを使うことになる人たちの期待や習慣にマッチしているかいないかも、知覚によって感じとる。こうして初めて、「やがてこれを使うことになる人たちが、そこに利益を見出すようになるには、何を考えなければならないか」との問いを発することができる。さもなければ、せっかくの正しいイノベーションも間違った形で世に出ることになる。


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